
columnコラム
生成AIの性能を120%引き出す「魔法の言葉」
– プロンプトエンジニアリング入門
「最近話題の生成AI、試しに使ってみたけど、なんだか期待した答えが返ってこない…」
中小企業の経営者や部門責任者の皆様の中には、そんな風に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、生成AIの性能は、私たちの「指示の出し方」次第で大きく変わるのです。
この記事では、生成AIをまるで優秀なアシスタントのように動かすための技術、「プロンプトエンジニアリング」について、ITの専門知識がない方にも分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたは生成AIとの上手な対話方法を身につけ、日々の業務を効率化するための具体的なヒントを得られるはずです。まるで、新人の部下に的確な指示を出し、期待以上の成果を上げてもらうためのコミュニケーション術を学ぶように、気軽に読み進めてみてください。
なぜ今、「プロンプトエンジニアリング」がビジネスに不可欠なのか?
「プロンプト」とは、簡単に言えばAIに対する「指示」や「お願い」のこと。そして「プロンプトエンジニアリング」とは、AIから質の高い回答を引き出すために、その指示を工夫する技術のことを指します。
数年前までのAIは、決められた作業を正確にこなす「分析」が得意なタイプでした。しかし、ChatGPTなどの生成AIは、文章を作ったり、アイデアを出したりと、0から1を生み出す「創造」が得意です。この新しいタイプのAIは、非常に高性能ですが、一方で私たちの指示が曖昧だと、見当違いの答えを返してくることも少なくありません。
例えるなら、私たちは皆、同じ「高性能なカメラ(生成AI)」を手に入れたようなものです。誰が使ってもある程度の写真は撮れますが、プロのカメラマンは構図や光を工夫して、人の心を動かす一枚を撮ります。同様に、プロンプトエンジニアリングを身につけることで、私たちはありきたりな回答ではなく、ビジネスの課題解決に直結するような的確な答えをAIから引き出せるようになるのです。
これからの時代、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、この「AIとの対話スキル」は、Excelやメールと同じくらい、ビジネスパーソンにとって必須のスキルになると言われています。
【実践編】明日から使える!AIがもっと賢くなるプロンプトのコツ5選
では、具体的にどのように指示を出せば良いのでしょうか?ここでは、様々な部門で明日からすぐに使える、代表的な5つのコツを具体例とともにご紹介します。
1. 役割を与える(ペルソナ設定)
AIに特定の専門家になりきってもらうことで、回答の質と視点が格段に向上します。
新商品のプレスリリースを考えて。
良い例
あなたは経験豊富な広報のプロフェッショナルです。当社が新しく発売する「ビジネスパーソン向け栄養補助食品」のプレスリリースを作成してください。メディアが取り上げたくなるような、キャッチーな切り口でお願いします。
2. 背景と目的を伝える(コンテキスト)
何のためにその情報が必要なのかを伝えることで、AIは意図を汲み取り、より的確な回答を生成しやすくなります。
DXについて教えて。
良い例
当社は従業員50名のアパレルメーカーです。社内の情報共有が紙ベースで非効率なため、DXを推進したいと考えています。中小企業がDXを始める際の最初のステップについて、具体的なアクションプランを3つ提案してください。
3. 具体的な条件を指定する(制約条件)
文字数や箇条書き、含めてほしいキーワードなどを指定することで、望む形に近いアウトプットを得られます。
営業のコツを教えて。
良い例
BtoBの新規開拓営業で、アポイント獲得率を高めるためのコツを教えてください。以下の条件を守ってください。
- 箇条書きで5つ挙げる
- 全体で約400字にまとめる
- 若手の営業担当者にも分かりやすいように、専門用語は避ける
4. 出力形式を指定する(フォーマット)
文章だけでなく、表やリスト、プログラムコードなど、希望する形式を明確に指示しましょう。
A社とB社の製品を比較して。
良い例
A社の製品「〇〇」とB社の製品「△△」の機能と価格を比較したいです。以下の項目について、マークダウン形式の表でまとめてください。
項目:機能、価格、ターゲット顧客、サポート体制
5. 手本を示す(Few-shotプロンプティング)
少し専門的になりますが、AIにいくつかの例題と回答を見せることで、回答のパターンを学習させ、精度を飛躍的に高めることができます。
以下のように、顧客からの問い合わせメールに対する返信文を生成してください。
例1)
問い合わせ:「商品の在庫はありますか?」
返信文:「お問い合わせありがとうございます。〇〇の在庫はございます。ご注文後、3営業日以内に発送可能です。」
例2)
問い合わせ:「製品の使い方が分かりません。」
返信文:「ご不便をおかけしております。製品の使い方については、こちらのオンラインマニュアル(URL)をご参照いただくか、具体的なご不明点を再度お伺いできますでしょうか。」
では、以下の問い合わせに対する返信文を作成してください。
問い合わせ:「領収書を発行してもらえますか?」
プロンプトエンジニアリングを組織で活用する際の注意点
非常に便利なプロンプトエンジニアリングですが、組織で活用する際にはいくつか注意すべき点があります。
1. 良いプロンプトは「会社の資産」として共有する
特定の社員しか質の高いプロンプトを作れない、という状況は「属人化」のリスクを生みます。各部門で効果的だったプロンプトは、テンプレートとして共有し、誰もが使えるように仕組み化することが重要です。これにより、組織全体の生産性が向上します。これを「プロンプト資産」と呼ぶこともあります。
2. AIの回答を鵜呑みにしない
生成AIは、時に事実と異なる情報や、文脈に合わない内容を生成することがあります。これを「ハルシネーション(幻覚)」と呼びます。AIからの回答はあくまで「たたき台」や「アシスタントの意見」と捉え、最終的な判断やファクトチェックは必ず人間が行うという意識を徹底しましょう。
3. セキュリティ意識を徹底する
ChatGPTなどの一般的な生成AIサービスに、顧客情報や社内の機密情報を入力することは、情報漏洩に繋がる重大なリスクを伴います。企業のデータを扱う際は、セキュリティが確保された法人向けのAIサービスを利用するなど、ルールを明確に定め、全社員に周知することが不可欠です。
まとめ:AIとの対話を通じて、ビジネスを加速させよう
今回は、生成AIの能力を最大限に引き出すための「プロンプトエンジニアリング」について解説しました。
- プロンプトエンジニアリングとは、AIへの「上手な指示の出し方」
- 「役割」「背景」「条件」「形式」「手本」を意識するだけで、回答の質は劇的に向上する
- 良いプロンプトは組織の資産。ただし、情報の正確性やセキュリティには十分注意が必要
プロンプトエンジニアリングは、一部の技術者だけのものではありません。むしろ、現場の業務を熟知している皆様のようなビジネスパーソンこそ、その真価を発揮できるスキルと言えるでしょう。
まずは、今日の会議の議事録をAIに要約させることから試してみてはいかがでしょうか。その際、ぜひ「あなたは優秀な秘書です。この会議の要点を3つにまとめてください」と、役割を与えてみてください。きっと、驚くほど的確な要約が返ってくるはずです。
この小さな一歩が、あなたの会社の働き方を大きく変える、DX推進の重要なきっかけになるかもしれません。